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四 方 山 話

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今迄の『四方山話』を掲載しております。これからもひとつずつ増やして行きます。興味のある物があればお読み下さい。


  • ピアノ不思議白鍵???
  • 楽器の中のピアノ
  • 音の高さ
  • 身近な音
  • ステージ上でのピアノの位置
  • 鉄道の大惨事に思う
  • グローバル化
  • ピアノを楽しもう
  • ピアノ調律
  • ピアノ調律2
  • ピアノの鍵盤
  • シーズニング
  • オーケストラと鍵盤楽器
  • ピアノ譲ります
  • ソーシャルディスタンス


  • 〜〜 ピアノ不思議白鍵??? 〜〜

    sample
     音楽は時間の芸術と言いますが、時間と言うのは星と密接な関係があって、1年を12ヶ月にして1日を24時間になった元も星からなんですね。

     1日24時間の起源は、世界初の都市国家を築いた古代バビロニア(Babylonia/紀元前1900〜1600年頃)から始まったと伝えられています。古代バビロニアはメソポタミア(現代のイラク)南部を占める地域です。
     古代エジプト(紀元前30000〜30年頃)では、「星時計」を使って夜の時間を計測しておりました。 星座を使った時計なので、時間の計算は「夜」にだけ行われたわけで、夏至と冬至とでは随分と時間が変わってしまいますね。そこで、1日を平均して24分割する現在の時刻になったのが紀元前12世紀の頃だそうです。
     太陽の通り道(黄道)と重なる星座が12あるのはこの古代バビロニアの産物です。
     この12星座が古代ギリシャ(紀元前2600〜340年頃)を経由して、古代エジプトに伝わりましたが、古代エジプトでは黄道の星座を12ではなく36にして区分していました。 36星座×10日で360+補正5日で365日の太陽暦を持っていました。今全天空には88の星座が有ります。
     さて、音楽に戻して、ピアノの音域と鍵盤数は、モーツアルト(1756〜1791)の頃は今の両オクターブ無い5オクターブくらいしかありませんでした。ベートベン(1770〜1827)がピアノの魅力に惹かれメーカーに要望。世界の工業力の発展と共に飛躍的に音量と音域が広がりました。例外はある物のほぼ100年位前に88鍵に落着いてきました。
    sample
    ・ピアノの鍵盤88key、その内黒鍵は36keyで、白鍵は52keyで、オクターブは12音。
    ・全天空の星座が88座、黄道には36座、そして1年は52週で、12ヶ月。
     ええっ?干支は12支!私の知り合いの調律師に教えてもらいましたが、Fが1月、#Fが2月、Gが3月、#Gが4月、Aが5月、#Aが6月、Bが7月、Cが8月、#Cが9月、Dが10月、#Dが11月、Eが12月、と辿って行けば、大の月が白鍵、小の月が黒鍵になります。

    偶然?でしょうが‥‥、偶然でしょうか? ミステリー!! トランプの枚数が52枚あるのも‥‥‥ ミステリー? 興味の有る方は、色々調べて下さいね。
     今宵はモーツァルトの「きらきら星変奏曲」でも聞きながら、天の川でも見ましょうか?(2012.7.1/001:改訂16.6.17)
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    〜〜 楽器の中のピアノ 〜〜

    sample
     楽器の王様はご存知でしょうか?それはピアノなんですね。ちなみに女王様はパイプオルガン。ピアノは音域が広く7オクターブ半あります。これほど広い音域はオルガンと電子楽器を除いて他にはありません。
     ところでオーケストラでは弦楽器群・管楽器群(金管と木管)・打楽器群と発音のスタイルで大別されます。さてピアノは中を見ると沢山の弦が張ってありますので弦楽器?とも見られますが、ハンマーで弦を叩いて音を出しているので発想の原点は打楽器なのですね。でも見た目の最大の特徴として鍵盤がある事で、今では鍵盤楽器として分類されています。
     一口に鍵盤楽器と言っても色んなタイプがあります。打楽器的な物に鉄琴(ビブラフォン)の鍵盤化チェレスタ。管楽器に当るのは、リードオルガンやパイプオルガン。チェンバロの様な弦をはじく楽器はギター・ウクレレ等の弦楽器に近い物ですね。最近では電子楽器があります。そうそうハーモニカの鍵盤化でピアニカもありますね。
     イタリアのバルトロメオ・クリストフォリという人が、弦を叩く強さで自由に音量を変えられないかと考案しピアノが発明(1700年頃)されました。ピアノは音を出すハンマーを突き上げるためのジャックと言う部品がありますが、当時発明されたものは、弦に当る直前にジャックの突き上げを外しフリーな状態で弦を打つ事や、弦に当ったハンマーが2度打ちしないようにハンマーをストップさせながら次への音出しに準備をするような、今のピアノでも基本となるような最低必要な作動機能を既に備えていました。この頃18世紀辺りのピアノは今では古楽器として扱われ、いわゆるフォルテもピアノも出る楽器『フォルテ・ピアノ』国によって『ピアノ・フォルテ』と言われています。
    sample  1台の楽器で低い音から高い音まで出せ、和音の出せる楽器としてピアノは音のイメージが出やすく、作曲家に取ってかけがえの無い物となってきました。モーツァルトの時代は今のピアノの88鍵より両オクターブが無い狭い音域でしたが、ベートーベンあたりからもっと大きな音、もっと広い音域が求められるようになりました。丁度近代工業文明の開花とピアノ作りの進化とが相まって19世紀中頃には、モダンピアノ、通称『ピアノ』として今日のピアノになって来ました。
     ピアノとのデュエットをしたチェリストが「ピアノは私の横で大きな音でがなり立て、ソロである自分の音が聞こえない!だからピアノはいやっ!」いやはや気持ちはわかりますね。ピアノ(p)と言うから音が小さくおしとやかかな?と思いきや大きな音量で鳴るので『フォルテ』と言った方が良いかも知れませんね。
     音律の柔軟なオーケストラに比べ、ピアノは音程が固定されるので(調律の後音程を変えられない)、そう言う意味でオーケストラ側からはみ出しぎみ。でもピアノ協奏曲ではオーケストラに負けじと自己主張をあらわにしているのは面白くもありますね。今やピアノは1台でソロ楽器として、または他の楽器や声楽のアンサンブルの伴奏すなわちオーケストラの代用として、重宝されています。と、言うよりもピアノスタイルとしての独自の進化を遂げています。今や音楽の花形であり、多彩な場面で現代の音楽に無くてはならない存在になっています。(2012.8.1/002)
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    ~~ 音の高さ ~~

    sample
     数字の話になりますが、ちょっと苦手な人もいるかも‥‥ですね。物体が振動すると空気を振動させ、それが人間耳の鼓膜に伝わり音として感じます。宇宙では真空なので聞こえません。振動でもっともシンプルなのは、サイン波と言ってSを横にしたような波形で、テレビの時報がサイン波です。この波形が色んな形によって音色が変わります。また1秒間に何回あるかで音の高さが決まります。その周波数の1秒間の数をHz(ヘルツ)と言う単位で現し、Hzが少ない程音が低く、Hzが多い程音が高くなります。
     一般に人間の可聴範囲は20Hzから20,000Hz(20kHz)です。超音波は人間の耳で聞こえない高い周波数を持つ音波を言います。超音波を使っている動物にコウモリがいて、反響定位と言って30k~100kHzの信号を出して跳ね返って来る音波で障害物を認知します。人間で言う目の働きをしているんですね。これの応用が魚群探知機です。
     その反対は低周波音と言います。風もないのにガラス窓がユラユラを感じた事がある方もおられると思いますが、高速道路陸橋の揺れで低周波騒音と言うのがよく話題に上っています。楽器で最も低い音が出る物は大型のパイプオルガンです。最低音16Hz(0C)、8Hz(-1C)と言うのもあるらしいです。こういった可聴範囲を超えているものは、耳でと言うよりも皮膚・体で感じて荘厳さをかもし出しています。映画でもこういった低周波を利用し、画像に同期し振動として臨場感を出している様ですね。

    sample  ピアノの音程は、基音のオクターブ上は2倍の周波数、2オクターブ上は4倍になり、オクターブ下は2分の1その下は4分の1の周波数になります。[5A]440Hzで数値的な計算で割り出すと、[4A]が220Hz、[3A]が110Hz、[2A]が55Hz、と一番下1keyの『ラ(A)』の音は27.5Hzとなります。ちなみに鍵盤で一番高い88key(8C)は 約 4,186Hzになります。
     ベーゼンドルファーと言うメーカーでModel 290と言うピアノがあります。このピアノは97キーもあり、音域の広さでは多分世界一だと思いますが、1key(0C)で通常の88キーの低いラ(1A)の音から9つ低い鍵盤を持っています。この鍵盤まで使わなくてもペダルを踏んで音の響きが自由になった時に、この低い弦にも共鳴して、奥深い味わいをかもし出しています。

     音楽の基音(ピッチ)は、時代によっても国によっても様々でした。国際交流が盛んになった現代、音程の統一化が求められて、1939年にロンドンで国際標準ピッチが A=440Hz に定められました。
     テレビの時報『プッ・プッ・プッ・プッ・ピー』。最初の『プッ』は440Hz、『ピー』は880Hzの高さで鳴っています。この音はピアノの調律の最初の基音を取る時の『ラ(5A)』の音、低い方から5番目のラ、49番目の鍵盤にあたります。
     日本のコンサート会場のピアノは、概ねA=442Hzの高さを基準としています。コンサートによって他の楽器との関係で、A-440とか441Hzのオーダーがある場合があります。440Hz辺りの1Hzの違いは半音の約 100分の4 くらいの高さの差になります。調律はこの440Hz(一般には442Hz)を基準に、音階を作りオクターブで低い方へ、又は高い方へ広げて調律を仕上げて行きます。(2012.11.1/003)
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    〜〜 身近な音 〜〜

    何でも一定周期の振動があれば音に‥‥

     鉄でも、綿でも どんな物にも1秒間に440回振動させると、その音程になります。しかし綿のような物は腰が無く、振動させても空気を大きく振わすだけのエネルギーを持てないためにほとんど聞こえないですね。逆にしっかりと音の出る物を削ったりしてピアノの『ラ(5A)』の音と同じ高さに持って行くと、秒間440回位の振動になっていることになります。1秒間の周期振動を Hz(ヘルツ)と言う単位で表しています。
     昔こんな実験をしました。メトロノーム1秒1回を鳴らし、低速のテープレコーダーに10分以上録音します。そして倍速の早さにして再生。それをまた他のテープレコーダーに低速で録音し、それを再度倍速で再生。これを5回繰り返えすと、メトロノームのカチッ・カチッ音が早すぎてわからなくなると同時に、『ブーー』と低ーい音(32Hz)がピアノ鍵盤で言うと一番低いC(ド/32.703Hz)に近い音がしてきました。

    車で時速50kmで走れば音楽が‥‥

    sample  最近道路脇の白線に凹凸を付けてありそこを通ると、『ブーン』と音がしますね。スピードが速ければ音が高くなります。タイヤで白線を踏んだ時に1秒間に粒をどれだけ通ったかで音程が出てきます。1秒間に440個通れば、440Hzの高さの音が鳴る事になります。計算上ではスピードと音程で粒の間隔がわかる事にもなります。
     先日音楽が流れる道があるとテレビで紹介していました。場所は鳥取県境港の近くで50km/hで走ると、ゲゲゲの鬼太郎の音楽が聞こえる。ネット検索で「メロディーロード」で検索すると、「ウィキペディア」に載っていますが、全国あちらこちらで音楽の鳴る道が作られているんですね。レコードとか、映画のサウンドトラックも同じ原理になります。
    sample

     昨年は雷が多く、落雷による痛ましい事故も起こってしまいました。音速は 大気中は約344m/s、水中では1500m/s、鋼鉄の棒5000m/sの早さで伝わります。光は30万km/sでほぼ同時なので、雷が光って1・2・3っとゴロゴロの音までの秒数を数えると、どの辺りに雷が近づいているか見当がつきます。10秒だと3.4km程の所と3秒だと1kmくらいと。『ピカッ,ドン!』は気を付けて下さいね。
     ちなみに1Hzあたりの波長は、ピアノの一番低い(1key/27.5Hz)は12.5mの長さで一番高い(88key/4186Hz)は約8.2cmなります。時報のポッ・ポッ・ポッ・ピーの最初の ポッ は440Hzで約78cmになり ピー は39cmになります。

    ドップラー効果

     電車に乗っていて、遮断機の『カン・カン・カン』音が聞こえてきます。通り過ぎると音程が低く少しゆっくりになります。これはドップラー効果と言ってその音源に向かって移動している時は、自分に聞こえる音波が圧縮され間隔が狭くなり音程は高くなります。そして通り過ぎると逆に自分に聞こえる音波が延ばされ、低く遅くなります。救急車でも、遊園地の大型ブランコでも感じる事があるとおもいます。
     ピアノの調律中に人が通るだけで反射した音が微妙に少し高く・低く音が揺れて聞こえます。
     音速の単位で、マッハ[Mach]と言う物があります。マッハは動く物体の速さを音速で割った単位です。マッハ1は時速 1,224kmになります。物体の早さがどんどん加速してマッハ1(1秒間に344m)に越えようとすると、スピードと音速が重なり凄まじい衝撃音になります。

    最後に

     たくさん張っているピアノの弦総張力18~20トンになります。1本に付き約70~100kgあたりで引っ張っています。音の高さと響きの良い音になるように、長さと太さと張力を計算して張っています。
     輪ゴムを何かに引っ掛けるて引っぱり弾くと音が出ます。引っぱっていくと、張力が増して音が高くなりますが、逆に音の出る長さが長くなり、音が高くなったり低くなったりします。時間があれば試して下さい。意外と楽しいですよ。

     地球の鼓動から飛行機の高周波まで、我々は様々な音(雑音)に包まれています。必ずしもその音が生理的に合うとは限りませんが、自然界に存在する音源を利用し加工して楽器を作り。声も含むその楽器をもって人生の悲哀とか喜怒哀楽を音楽として表現。それが心の共感であり癒しであり音楽芸術と言う素晴らしい物に築き上げました。人間て素晴らしいですね。(2013.1.5/004)
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    ~~ ステージ上でのピアノの位置 ~~

     壁のある所で音を出すと、音は壁に当たり跳ね返ってきます。この原音との時間差を反響(エコー)と言っています。それが複雑に組合わさり余韻を残すのを残響(リバーブ)と理解していただければ良いかと思います。
     声楽も含めて楽器の弾き手が響きの良い所で奏でるのは気持ちのよいものですね。お風呂でつい歌いたくなるのも一つですが、山の「ヤッホー!」、トンネルの中、石造りの部屋、等々、適度な残響空間は聴く人に潤いをもたらせてくれます。
     しかしあまり残響だらけの空間は、音を出した直後の音と今出している音とが混じり合い、何を言っているのかわからないうるさいだけの空間になってしまいます。音楽に使えない反響に「鳴き竜現象」と言うのもあります。これは手を叩いた音が両壁間を何回か音が往復して、断続的に聞こえる現象です。またその反対に平原の真ん中とか、無響音室で楽器を吹いていても、ダイレクトな音だけしか聞こえなくて、少し離れるだけで聞き取りにくくなります。宇宙空間は残響も反響も無いはずなのに、宇宙映像のBGMでは残響を加えて広がりをイメージさせるのは面白いですね。
     コンサートホールはこういった音の残響を計算して設計しますが、全てにおいて音響に満足するホールはありません。新しいホールが出来上がっても、コンサートとかその他の催しに対処しながら反響板を調整して、良い響きのホールに作り上げて行きます。
    sample  楽器は厄介な事に指向性があります。ステージで弾き手が出して聞いている音と観客席で聞いている音には響きの違いがあり、ステージと観客席を同時に体験出来ない演奏家に取っては、観客席はあくまでもイメージでしか予想出来ないのです。演奏者は立ち会いをしている調律師とか、他のスタッフに客席での音の感触を聞き、最良な位置を探して行きます。ステージ上で音の跳ね返りの良さを求める演奏家、ステージのほぼ真ん中に置かれるピアノも納得するまで前に出したり、少し奥へ引っ込めたり試して行きます。
     声楽の歌われる人が、運動靴か、硬質の革靴かで音が違うのと同じように、ピアノの位置が決まっても、ピアノのキャスターを少し回転させて良いポイントを探る事さえあります。それはステージ上の床も全てのポイントが全く同じ条件でなく、キャスターの向きを少し変えるだけでも音に安定感が加わったりと、影響して行きます。音量・音質・音(楽器)のバランス、そしてステージ上の見映え 等々。ステージ上での楽器の位置はコンサートの中でも重要な事の一つなのです。
     ホールの座席位置による音の違い、音の指向性、こう言った音響の事を考えながらコンサートを聴くと、楽器の善し悪しも含めて何か新しい発見があるかもです。楽しいですよ。(2013.4.20/005)
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    〜〜 鉄道の大惨事に思う 〜〜

     私事の話しで恐縮ですが。大阪の楽器輸入元総代理店の社長に「ドイツへ行かれるならば是非鞄持ちでいいから同行させてくれ」とお願いしていました。それがずいぶん前の話しですが、平成5年3月の初め、スイス、イタリー経由も含む15日間のドイツの旅が実現しました。私丁度40才。「日本人に西洋音楽はわかるのか」「いいピアノを作るには日本と何が違うのか」私なりに色んな思いで旅立ちました。
     フランクフルトのムジークメッセ(ドイツ国際楽器見本市)を起点にパイプオルガン(個人制作者/バーゼル)、リードオルガン(デルマルコ/イタリー)、ハープ(ホルンガッハ/ミュンヘン)、ピアノ(グロトリアン/ブラウンシュバイッヒ)を回りました。全てを書くのはまた長くなりますので割愛するとして。
     ドイツ人も日本人も同じ心臓の鼓動をもつ人間なんです。つねられれば痛いし、自分を良く言われると嬉しい。人の心のうずきとして産まれた芸術を、風土・宗教・歴史の違いに理解をするのに時間はかかるが、ドイツ人だけがわかり日本人にはわからない事は無い。
     そしてさぞ良いピアノ作りには、優秀な職人が時間も忘れ丹誠込めて、作っているのだろうなと淡い期待をもっていました。でも以外や以外、終了時間がくれば、ピンを打ちかけていてもサーッと帰って行く。「はて?」
     ハープの年産18台5年間予約で一杯らしい。そのハープ工場で、同じ小さな部品を一つずつ切っては削って、「この錐は良いだろう」と、自慢そうに私にドリルの刃を見せる。効率がすこぶる悪い。日本人のバイヤーが、急ぐんでこの間に1台入れてくれないかなと言っても「ノー、後、後」と取り合ってくれない。日本だと、どこかの町工場へ部品を量産発注し、部品の検品をして良いものだけ使用すれば、ハープの組み立てはスムーズに運ぶ。そして「給料をはずむから残業してくれるか」で、18台が22台になり30台になり機械化の道へ進むのだと思います。パイプオルガンにしても木の乾燥は1cm1年、5cmの厚みは5年間寝かすらしい。何も全て良い面ばかりではない無いと思いますが、でもみんな決してあせらずゆったりと作っています。
     労働の後、家へ帰り、夫婦で散歩し季節を感じたり、音楽会に出かけたり、充実した生活中に滔々(とうとう)と流れる生き方。これだと思いました。人間としての心のゆとりがここ個人の感性を育て、あの芸術を産み、良い楽器を産むのではないでしょうか。ドイツでもピアノはどこのお家にもありません。ピアノが少しでも弾ける事は賞賛にあたる事のようです。そう言う形ではない社会の基本的なあり方にカルチャーショックを受けて帰りました。早くも遅くもないこの40歳と言う年齢に体験できた事が、私のその後の歩みに大きく影響しました。
     そう言う体験の中で今、世の中の便利を追求して、より快適に、より早く、より豊かに?表面的には非常に良い様に思いますが、物質的な豊かさの中に置き去りにしてきた本当の豊かさを今の日本人は忘れている様に思います。未来50年後100年後の子供たちに本当にいい行いをしていっているだろうか。
     以前、鉄道史上稀に見る大惨事が起こった事は、まだ皆さんの記憶に残っている事と思います。亡くなられた方には、心からご冥福をお祈りいたします。これからもっと解明が進んで行くと思いますが、なぜそうなったのか。これだけ悲惨になるかどうかは別として、今の日本の大流の中で起こりうる事ではなかったのか‥‥。ゆとりの無い生活の中で、少しでも遅ければ、やいのやいのと叫ぶ乗客、機械化の中で何百人もの命を預かっていると言う自覚の無さ、経営から来るスピードと時間の正確さを誇ろうとする鉄道のメンツ。これは鉄道だけの話しでしょうか。
     グローバル化が世界をネットで包み、画面の中でバーチャル化が進みそんな商業主義の中で世界が、どんどん人間としての心の通いを見失ってきているのではないでしょうか。私もその中にどっぷりと浸かっています。ドイツも今若者のアメリカナイズを批判している年配者も多いと聞いています。世の中が豊かになればなるほど、ショッキングな事が多くなるのはなぜでしょう。みんなが心のゆとりを持とうとすれば、毎日の様に新聞をにぎわしている短絡的な殺人ももっと少なくなるでしょうし、今回の鉄道のあの大惨事も免れていたのではないかと思います。アメリカのある町でクラシックの曲を流し続けた所犯罪が半減したとあります。芸術(人が作った)に感動できる人には万物に対しても慈しむ心を備えられていると思います。今の忘れかけた社会を取り戻すのに、調律師の1人として、我々回っているお客様に対しても、何か寄与できるのではないでしょうか。一歩一歩畳の目の様な歩みであっても‥‥。

     古いですが、2005年に日本ピアノ調律師協会会報に寄稿した物を少し改訂してお知らせいたしました。(2013.6.19/006)
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    〜〜 グローバル化 〜〜

     人の叡智はコンピューターネットワークが世界を覆い、茶の間で今起こっている世界の感動・事件・事故等が画像付きのリアルタイムで入って来る。昔に比べ今の時代を不幸だと感じている人はほとんどいないと思います。この世界共有化の波。これがアメリカの言うグローバル化なんでしょうね。
    sample  音楽で言えば「楽譜」、クラシック、ジャズ、ポップス、ジャンル問わず楽譜一枚があれば世界あらゆる所で、同じメロディーを奏でられるのは、音楽の大きな発達に繋がりました。これもグローバル化による素晴らしいシステムです。

     昔旅をして、その駅に降りた瞬間地域の香りと言う物に浸れり、旅情をかもし出しました。しかし近年どの駅に降りても駅前ロータリーがあり、全国で見る銀行・塾の看板。バスから聞こえる若い人の話言葉は、TVでよく聞く全国共通言語?地域性を感じなくなってきつつあるのは寂しいばかりです。
     音楽に於いても昔はドイツにはドイツの、イタリアにはイタリアの、アメリカにはアメリカの、個性を持った芸術家が金字塔を打ち建てて、来日でのコンサートにも芸術性の高さと郷土色の香りで酔いしれていました。しかし最近の音楽家は、何々コンクールで1位とか2位とか、世界の有名なコンクールの入賞者が世界を駆け巡ります。何かオリンピックの陸上のように、より早く・より高く・より強くの世界になってしまい、一寸のミスも無い完璧な演奏が好まれるようになりました。決して悪い事ではありませんが、音楽の聞く幅が自由になったと言うより、むしろ狭くなったように思うのは私だけでしょうか。多少テクニックは落ちていても、人間臭い深ーい感銘を得られる演奏に出くわしたい物です。
    sample  調律師の言う事では無いのかも知れませんが、鍵盤は1オクターブ内に12音を均等に詰め込む事により、グローバル化を図り広がりました。各地域にはその地域の独特な音階があり、今の鍵盤では表現しきれない音程を持った音楽もいっぱいあります。独特な文化の中で、共通する人間の生きる喜怒哀楽に触れた芸術は、奥深い共感もひとしおではないでしょうか?

    sample  大きな災害に陥った地域に素早く情報をキャッチして、救助隊が駆けつけて行ってくれるのもグローバル化。ネットを通じて見ず知らずの人と特定な何かに中傷するのもグローバル化。今後世界は色んな問題を抱えながらグローバル化がどんどん進む事でしょう。しかし進めば進む程一律思考が強まり、各分野によっては体勢に合わない末端が見放される事にも繋がるようにも感じます。人間の文明が進んで行っている以上、決してグローバル化を否定するものでもないですが、土地土地の地形風土に裏付けられた言語・風習・造形・音楽 等、こういった文化を大切にするならば、自分の考えをしっかりとした見極めた選択が必要なのでしょうね。(2013,9,1/007)
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    〜〜 ピアノを楽しもう 〜〜

     調律に伺ってこんな話しがありました。田舎からおばあちゃんがやって来て「何々ちゃんピアノ長い事しているね 1曲おばあちゃんに聞かせて!」。何々ちゃん「わたし弾けない!」おばあちゃん「えっ!そんなに長い事していて1曲も弾けないの? ピアノって大変やね」。
     せっかくピアノを長く習って、時間もお金も使って、生活に活かせないのはもったいないと思いませんでしょうか?レベルの上下は別としてピアノを楽しめないと、ピアノって大変なノルマだけの物になってしまいがち。そこで提案です『自分のレパートリー(いつでもすっと弾いて、聞いてもらえる曲)を最低3曲。出来れば5曲を持とう!』なんです。
    sample
     調律に寄せていただいて奥様が「子供がバイエル51番が出来て52番をし、53番にかかる頃には、51番弾けないんですよ、これで良いんでしょうかね?」っと訴える。でもバイエル卒業する頃には、51番でも52番でも弾けるようになっているし、バイエルの次の課程の本を卒業する頃は、バイエルもすいすい弾けてきているはず。
     また「久しぶりにしていた楽譜を出して弾いてみたら ぜんぜん弾けなくて!」ってと言うあなた!。でも弾けないのは当たり前、ピアノを止めた直前の曲を手に取って弾こうとしている曲は実力に以上の物に挑戦している事になります。ましてはここ数年いや、十数年ピアノに遠ざかっていれば見慣れていた楽譜さえよみがえるのに時間がかかりなおさらです。
     すなわち今やっているレベルの後を追うように実力が身に付いているのですね。だから先生はどんどん先へ進めていきます。

     「今でも先生の出される宿題でふうふう言っているのに無理」と言わず、レパートリーを持つにはまず負担にならない範囲で行う事です。ちょっと10分でも余分に時間を裂いてレパートリー曲を1回通すだけ!。毎日やれば問題ないのではないでしょうか?ジャンルもレベルも問わない短い曲で、最初はもっとレベルを落として「メリーさんの羊」でも「ちょうちょ」のような初歩の曲集からでも探し出して選べば良いです。
     前にした物を久しぶりに弾いてみると新たな発見があったりして、簡単な曲でも心を込めて弾けばいつもと違った名曲に。そして3曲から5曲位揃って曲に飽きてきたら、どれかの曲を削除して新たな曲をちょっとレベルアップ。ポイントは簡単な曲で良いから、自分らしい解釈で心を込めて、出来れば間違わずに弾く事。クラッシックあり、映画音楽あり、ポップスあり、ジャズあり、専門家の前でなければ、1曲弾ける事は凄い賞賛に値します。それがもう一曲とリクエストがあればもう一曲と、あなたは尊敬の目でみられますよ! いかがですか? (2014,1,10/008) sample
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    〜〜 ピアノ調律 〜〜

    ピアノの音は弾かなくても狂います

     ピアノの音は弾かなくても狂います。1日の温湿度差で、音程が微妙に上がったり下がったり。それが1年の大きなシーズンで1年なりの狂いは生じてきます。ピアノの置いてある環境によっても違い、環境変化の大きい所では狂いが大きくなります。エアコンを掛け出すとオクターブが気持ち悪くなったり、意外と小刻みで変わっていきます。調律中に温湿度差があれば、音程が落着かなくなり、調律師が四苦八苦する事もよくある話しで、後の狂いもどうしても大きくなります。またピアノによっても、そして調律師によっても狂い方が違います。ピアノをよく弾けばその弦を振わせる訳ですから、狂いはさらに大きくなりますし、強いタッチではなおさらですね。

    sample

    下がりの大きいピアノ

     ピアノの弦の張力はだいたい1本あたり70kg位で230本程あり、弦は一生涯張ったまま。新しい弦は、伸び縮みの中で伸びるウエイトの方が大きくどんどん狂います。ほぼ落着いてくる迄に3~4年は掛ります。新品のピアノを買われて間もなく調律して放置と、しっかり調律して落着かしての放置とでは、同じ期間でもピアノの音の狂いが全く違ってきます。
     調律は230本位のピンを同時に上げる事が出来なく1本ずつ上げていく作業の為に、よく音が下がっているピアノは、調律で引き上げている内に、最初に上げた音が下がってきます。大体上げ幅の1~2割くらいは狂います。それで本調律の前に「粗律」と言ってザーッとピッチを基準に揃え、これはピアノ全体の張力を均してから本調律する事で、調律の安定化を図ります。そこまでしても、毎年調律しているピアノと、ピッチ上げをしっかり粗律して本調律したピアノと、1年後の狂いは毎年している調律の方がはるかに音の安定度はあります。また調律師が粗律をしっかりしているものと、粗律をいい加減にしているピアノとでも、安定度は違ってきます。

    調律のねうち

     10年放置していても、弾いた音の右隣の音の方が低くなる事はありません。ドレミファソラシドの音階もよほどの事が無い限り認識出来るでしょう。音階が認識出来れば調律は要らないのでは?と思われる方もあるかも知れませんが、単音の曲名当てクイズに使用する位ならば調律も必要ないでしょう。しかし一番大事な音楽を表現すると言う意味では調律は無くてはならないものです。
     ピアノは一人でメロディーにハーモニー・伴奏と、重音で鳴らし、そして音を響かす右ペダルを踏んだりして音の響きを五感で感じます。低い音にその上の音・その上と、音が気持ちよく重なり(ハモリ)、その上にメロディーを乗せて奏でる響きは何とも言えない気持ちにさせられるでしょう。お客様が「娘がわかってるのかどうか、調律した後気持ちが良いと言います」と言う話しをよく聞きます。調律は音楽として感じを表現するのに必要不可欠なものです。かなり狂った状態で慣れているピアノもきっちり調律をすると、表現するタッチ感まで変わってきます。

    sample

    音の狂い

     音楽を奏でていて、各1音1音とかオクターブを弾いた時に、透き通るような音で無くなってきたり、音の濁りとか音が揺れたり。また左手で弾く和音と右手で弾くメロディーの一体感が無くなったり。ピアノに於ける調律のウエイトってけっこう大きいものです。
     よく狂っているかどうか良くわからないと言われますが、調律した後のすっきり感を良く味わって下さい。よくわからなくても、もう少しピアノから出るハーモニーに気を付ければ、感じて来るようになります。気持ち良く思う表現をしたい時は調律ですね。まだ理解があまり出来ない小さい子供にも調律した音で接していると、他のピアノを弾いた時に「このピアノ音おかしい」と言ったりします。

    調律作業と時期

     一般的に調律は、まず49番目の基音ラを取り(49Akey/440Hz~442Hz)、オクターブ下(37key)を取って33F~45Fkeyで音階を作ります(割振り)。それをオクターブ下へ、上へと1本音をとっては複数張っているユニゾン(同音)を合わせていき、1Akeyから88Ckeyにまで合わせていく作業です。
    sample  だいたいの調律時間は、1時間少々から状態の悪いピアノは2時間近く、長期していないピアノで、下がり過ぎている場合は何回かの粗律をしてきっちり合わせると3時間位かかる場合もあります。3時間と言っても調律中に他にやらなくてはならない事が見つかれば、もっと時間が掛るケースもあったりします。あまり狂っているピアノは、調律を終えた後もピアノ自体も正規の張力に馴染んでいないので狂いやすく、次の調律を1年とは言わず短いめにとお勧めする調律師もいます。
     調律を半年に1度されているお家は、お部屋の環境にもよりますが、夏・冬よりも春・秋の方が調律時のピッチ変動が少ないため安定しやすいでしょう。年に1回の方はシーズンはあまり関係ないですが、ピアノの状態が良く無い(トラブルが出やすい)時期に見てもらうのも一つの考え方です。
     基本的には調律の時期は、弾いていて音に気持ちが悪くなった時では無いでしょうか。 (2014,5,3/009)
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    〜〜 ピアノ調律2 〜〜

    調律は音合わせだけではありません

     調律は音だけ合わせる作業ではなく、音程・音色・音量と弾きやすさと、音楽を奏でるより良い状況へ持っていく作業です。いくら音程を最良にしても、弾き心地が良く無いと魅力を感じないですね。1キー1キー軽やかさの中に味わいとすべてのタッチが揃うように、極力ピアノの能力を精一杯引き出す調整を含めたのが調律作業です。音程は温湿度で変化するように、調整の方もタッチに影響しています。ピアノ環境と年数で調整の方も狂ってきます。ほとんど使わないからと言ってそのままの状態で保てる事はまずありません。

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    意外に重要な調整

     鍵盤の下りる深さは10mmで、その間にハンマーが約45mm動きます。鍵盤を押さえてどの深さで弦を打つか、打たれたハンマーをどのタイミングで止めるか、またどのタイミングで止音装置(ダンパー)を解除するか。等々ミクロのような話しですが、そのピアノの善し悪しは有りますが、これらをどこまで隅々まで行渡らせるかがそのピアノの良さを発揮出来るかどうかにかかって来ます。また同じ機種のピアノによっても個体差があり、調整もメーカー指定の寸度を保てば必ず最良になるとは限りません。その個体差を調律師の判断で微妙に寸度を加減して、タッチの手応え、鳴りのタイミング、など良いタッチのバランスを探り、弾き手が少しでも気持ちよく弾けるように調整の工程を詰めていきます。

    定期調律の有効性

     調整を本格的にきっちりすると最低2日程掛ります。毎回の調律で2日掛ける必要はないでしょう。それで一般の定期調律では、毎回限られた時間の中で1つ・2つの調整工程をほどこしながら、一定の調整レベルを保っていきます。定期調律には保守の意味もありますので、何年かに1度は鍵盤を外しての掃除をします。ピアノの状態を隅々までチェックし、虫食いとか錆の進行を酷くならないうちに食い止めたり、また長期的な傾向として少しずつ湿度の影響、ピアノの歪みまでも診ていきます。
     それ以外にも、調律師が雑音とか気になる所に応じて処置をしていきます。例えば、同じ調律師が毎年寄せていただいていて、部品のネジに緩みを放置。その結果、後々それが原因で部品が壊れ余分な出費になった時は、その責任は調律師側にもあることでしょう。

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    長期放置のピアノ

     調律作業でよく10年20年と放置しているピアノに出会う事が有ります。予算も含めてこれも2日かけると言う訳にいかないのが現実です。一般家庭においては、まず初回は、調整が多少不揃いであっても「音楽としてのクオリティが保てる最低限範囲」に取りあえずは持っていくのですが、時間もかかりその時の作業としてはハードになります。そして次からの定期調律で順次精度を高めていきます。
     ピアノの状態は、放置期間とそのピアノの素性によっても違いますが、調律料としてべらぼうに高い料金には普通はなりません。でもあまり安い料金であっても、一応のクオリティを保てる作業が出来ていなければ、調律の意味がありません。ただ長期放置で修理をしなければまともに奏でられない場合があり修理代としてお金がかかる場合があります。金額が心配ならば、納得がいくまでよく調律師と相談して下さい。
     ピアノは放置すればするほど調律作業が大変になるのは物理的に仕方の無い事です。でもよほどの粗悪なピアノでない限り、調律・調整をきっちりすれば、非常に良くなります。せっかく我が家にあるピアノ、ピアノのクォリティーが上がれば練習も楽しくなることでしょう。弾かなくなったピアノでも2・3年に1度は保守の意味で調律をお勧めいたします。調律はこまめにすればするほどピアノの状態が良くなっていきます。

    最後に

     調律は1個の物品ではなく技術料です。技術者の思考によっても差があるので、お客様と調律師との技術的・感覚的な相性もあるでしょう。また調律料金も各社まちまちですが、本当に調律料の高い・安いは、調律師がどこまで踏み込んで調律作業をしてくれるかにかかってきます。金額は安いのにこした事は無いでしょうが、ただ安いからと言って、時間も含めて、軽く調律をしてもらうのは、楽器として本当に安い調律料なのでしょうか?(2014,9,2/010)
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    ~~ ピアノの鍵盤 ~~

    sample  元来音楽における音階はオクターブ12音に限られているものではありませんが、 賛否はあるもののそれを12音に詰めてしまう事により、クラッシックはもとよりジャズからポップスまでのあらゆるジャンルに、そして音楽の世界が広がりました。その象徴的なのが鍵盤楽器ではないでしょうか。ヴァイオリンニストからすれば固定された音は不自由な楽器でも、鍵盤奏者からすればこの白と黒のモノトーンの中に広大な世界があります。

    鍵盤のサイズ

     ピアノの鍵盤の数は普通88鍵で白が52鍵で黒が36鍵。鍵盤サイズは各メーカー若干の違いはありますが概ね、鍵盤巾 1220~30mm、白鍵1本23mm、奥行き150mm、隙間1mm、黒鍵1本巾11.5(上面9.5)mm、奥行き90mm。ほぼ100年前からピアノ鍵盤は定着して世界どこへ行っても鍵盤があれば同じ感触で奏でられるようになりました。ピアノ以外はその楽器によって巾の狭いサイズもあります。

    黒鍵の#ドと#レの隙間と#ファと#ソの隙間が違うのをご存知でしたか?

    sample  白鍵上における黒鍵の割振りは、まず手前の白鍵オクターブの巾(ド~シ)を7等分します。黒鍵側は、そのド~ミの3つを5等分し、後のファ~シの4つを7等分して作られています。計算では白鍵巾1に対して黒鍵巾は、ド~ミの5本は 0.600、 ファ~シの7本は0.571。黒鍵と黒鍵の間に指を入れると違いが分かると思います。

    鍵盤の材質

     厚さ約25mmの松材の板を鍵盤形に切断して、上部面に白鍵・黒鍵の素材を張り合わせた物です。白鍵は昔は象牙が多く使われていました。象牙は弾いた感触が良く、手汗をかいても吸収し滑りにくいので重宝されています。高価な象牙に近い物で大きな動物の骨を加工して作られた物もありましたが、目が粗く余り普及はしませんでした。また象の乱獲の問題によりワシントン条約で輸出入が禁止になり、日本の在庫としてあった象牙の値段は最高級品にまでになってしまいました。ロシアには絶滅したナウマン象が数多く埋もれており、その化石からナウマンの象牙が取れて、ワシントン条約にも引っ掛からないらしい最近流通してきています。
     60~70年前から白鍵に採用されたのがセルロイド製(合成樹脂)。セルロイドは加工が比較的簡単でしたが、年数と共に変色して黄色くなると言う欠点がありました。「家のピアノの鍵盤は象牙で黄色く変色しいます」と言われ見てみたらセルロイドだったと言う事はよくある話しです。近年では変色しなくて硬質のアクリル樹脂が一般的になりコンサートホールの大型ピアノもほとんどがアクリルです。象牙の感触に代わる物としての新素材が出て来きました。しかし汚れが白鍵盤の中に染み込み黒くなったりのトラブルがありましたが、最近はかなり良い物が開発されているようです。黒鍵は、白鍵のアクリルに対してベークライトが主に使われています。高級品は黒檀か、紫檀のように黒檀に似た天然木が使われています。

    白鍵と黒鍵の色が反対に?

     ピアノが出来る以前、チェンバロと言う楽器は白鍵と黒鍵が反対になっています。当時の象牙はかなり貴重だったので象牙を本数の少ない黒鍵に使ったとか、色んな説があります。私の思うのには、白鍵どうしの境目が白だと区切りがはっきりしますが、黒いと分かりにくので定着し無かったのではと思います。特にピアノのようにフルスケール白鍵52keyにまでなればなおさらではないでしょうか。

    自由な発想で

     ピアノが成長期の頃は色んな夢を持って作られました。例えば高音と低音が反対になったピアノ、白鍵の手前が弾き手を囲むように円になったピアノ、2段鍵盤のピアノ。近年も白鍵が黒色に黒鍵が赤色にとか。子供のサイズから何段階も大きさが揃っているヴァイオリンにならい、ピアノも鍵盤巾が狭いサイズで製品化もしましたが、それに慣れても他での使用に困難、経費が掛り過ぎる等の諸問題で実用にななりませんでした。10年前辺りから『新白鍵』と言う黒鍵の無いピアノが発売されていました。昨年の楽器フェアでも出展していました。


     調律師が調律の作業を終え、ピアニストが弾こうとする鍵盤に、埃が乗っかっていたら、気持ちが削がれると聞いた事があります。10mmの深さからかもし出る無限の広がり。ピアニストにとってピアノの鍵盤は本当に神聖なものなのですね。いつも清潔にしておきましょう。(2015,1,5/011)
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    ~~ シーズニング ~~

    sample  昔先輩がヨーロッパに行ったとき、列車の車窓から見える景色の中に沢山のピアノの鉄骨が並べられ、それも雨ざらしで錆び錆びのままで放置しているのを見たと言っていました。ピアノの鉄骨は鋳造、すなわち型を作り鋳鉄を流し込み作ります。鉄は冷める時に縮みます。ピアノの鉄骨は鉄の薄い所、部厚いところがあり、鋳造して冷やす段階で、どうしても部位によって引きつけが起き歪みが出来てしまいます。その歪みを少なくするために雨ざらしにして、温めたり冷やしたりしながら長い時間をかけて歪みを取っていきます。

     日本の仏閣寺院で千年培った木で建てると千年持つとも言われる様に、木は製材しても細胞は生きています。ヴァイオリンのストラディバリが400年も経った今も人々の感動を呼び、名器として取り扱われる。これも生きている木に、良いシーズニングが加わった結果なのでしょう。
     私が20年程前にドイツのパイプオルガンの制作者を訪問したとき、屋外の屋根付き棚にいっぱい木材を掛けていました。聞くと厚み1cm1年、5cmだと5年ここで寝かせるとか言っていました。日本でも昔新幹線で浜松辺りを通ると、貯水池に大量の材木を浮かせていました。これも自然に任せての時間的経過により脂(ヤニ)などの不純物を取り除く一つでした。こういった脈々と流れる時間の中で、楽器が作られるのです。
     木材の乾燥はシーズニングで時間を掛けて細胞の深部までその環境に染めて行きます。長期乾燥した木材に瞬間的に水がかかったとしても、それは表面的な細胞表面の濡れであってすぐには深部にまで至りません。このじっくり細部まで行き渡らせる事がシーズニングなのです。
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     近年、鉄骨鋳造も歪みの少なく即応性に富んだ工法の研究も進みました。即応性と言う意味では、木材も強制乾燥して短期間で加工処理され製品になって行きます。強制乾燥は木の狂いは少なくなりますが、ちょうど野菜を凍らせたのと同じように、細胞の深部まで傷めてしまい、木材本来の良さを半減させてしまう事に繋がります。近年、世界的に木材単板の良い素材が少なくなってきた事もあり、接着剤の進化とともに合板・合成材の技術も発達してピアノには欠かせない材料になってきています。

     あらゆる自然素材の特性を生かしてそれを組み合わせ進化してきたピアノ。その魅力によって多くの作曲家が作品を作り、またそれによってピアノは芸術的進化を深めました。楽器ピアノは贅を尽くして作られた人類の誇る芸術作品の一つと思っています。近年大金持ちしか得られなかったピアノの値段が、一般人にも買える金額に成ったことは、素晴らしい事ではあります。
     世界的に少しでも安く・早く商品を回す経済至上主義の現代。生産台数の多いメーカーは、即応性に富んだ材料と極力抑えた人件費でまかない。生産台数の少ないメーカーは、良質な楽器を目指す程、相反するコストとの大きな壁にどのメーカーも四苦八苦しているようです。現代に置ける楽器製作は必ずしもそれに即してるとは言えないようです。時代のニーズと共にどんどんシーズニングの影響を受けない”百均”風の物造りにすり替わって行くのは仕方がない事なのでしょうか?

    sample  お持ちのピアノも設置場所によってその環境に影響されてきます。特に舶来のピアノは生まれた環境と違うので最初はトラブルがありますが、どのピアノもトラブルがあっても少しずつ修正して設置環境に慣らしていけば大きな問題は無いと思います。1日・1年の温湿度差がかなり激しい所とか、年通じて湿度が多すぎたり過乾燥であったり、通気性の悪い所など、楽器として対応出来ないくらいの過酷な状態だけは気を付けましょう。
     生活に密着したピアノ。余り神経質に考え過ぎて日常生活に不自由な物になってしまっては意味がありません。一般的には人の住環境にプラス少し気を付けてあげる位で充分ではないかと考えます。ピアノ環境について気になる時は、掛かり付けの調律師に相談される事をお勧めします。いつもピアノが笑顔である事を願っています。(2015,08,23/012)
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    ~~ オーケストラと鍵盤楽器 ~~

     ピアノは最低音1key(27.5Hz/A)から最高音88key(4186.0Hz/C)。通常オーケストラの音域で一番低い楽器は弦楽器のダブルベース、そして一番高いのは木管楽器のピッコロで、ピアノはほぼオーケストラの音域をカバーしています。パイプオルガンの音域はピアノの7オクターブ半の音域に対して、それより低い9オクターブのものもあります。

     オーケストラの各楽器の発音体を見てみると、主に空気でリードを鳴らすオーボエ・クラリネット等の木管楽器。唇を振わせ筒を通る空気振動を利用したホルン・トランペット等の金管管楽器。ヴァイオリン・チェロ等の様に弦を弾いたり(はじいたり)擦ったり(すったり)して音を出すの弦楽器。ティンパニー・木琴等、叩いて音を出す打楽器と大きく4つに分類されます。
     この4つの分類は鍵盤楽器にもあります。木管楽器にあたるのはリードオルガン。金管楽器にあたるのはパイプオルガン。弦楽器にあたるのはチェンバロ(ハープシコード)。そして弦を張ってはいるもののハンマーで叩き音を出すのでピアノは打楽器にあたります。このように発音体を持つ全ての分野に今や鍵盤楽器は使われています。
    sample
     オーケストラの各楽器はほとんどが単音ながら、音楽表現の抑揚を息で変え、押さえる力で変え、打つ強さを変えて自分の思いを伝えられる豊かな表現力を持っています。それに対して鍵盤楽器は、オーケストラのように抱え込む楽器とは違い、鍵盤を通じていわば小手先で奏でます。オルガンのように一音一音細やかな音量差が得にくいですし、チェンバロのように弾く(はじく)強さを自由には出来ません。抑揚の細かな表現がしにくいのが鍵盤楽器と言えるでしょう。
     しかしピアノは鍵盤からハンマーで弦を打つアクションと言うからくりにより、一音一音細かく音量と音色を弾き分けられる、打楽器に進化しました。1人でオーケストラのフル音域と重音を奏でられ、細かな表現差を得られる事から小さなオーケストラとも言われ、ピアノソロは勿論の事ヴァイオリンとか声楽等の多くのソロ楽器の伴奏としても多く使われます。小手先で自分の意識でなかなか微妙な抑揚を出す事が難しい鍵盤楽器の中で、ピアノは唯一10本の指の力ですばらし表現を出す事が出来ます。やはりピアノは楽器の王様ですね。(2017,04,25/013)
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    ~~ ピアノ譲ります ~~

     「ピアノを貰い受けたので 調律して欲しい」「以前の調律はいつですか?」「いただいたピアノなのでいつかわかりません 長い間していないと仰っていました 音は全部鳴っていて問題ないと思います」と初めての方からのお電話。お伺いして、ピアノの外観は多少くすんでいるものの奇麗なピアノでした。しかしこのピアノ、鍵盤の上に掛かっている赤いキーカバーに虫食いの穴があちらこちら。ピアノを解体してピアノの鍵盤棚を見てみると、虫食いでフェルト色の粉だらけ。結局修理代共々で思った以上の金額になり、ピアノをいただいた方が後味の悪い結果に、こんな事 意外と多いです。

     ピアノは音がなっていれば良いという世界ではありません。耐久消費財と言われるピアノ、鍵盤から音が鳴るハンマーまで、そして音を止めるダンパー、ペダルも含めピアノは使えば使うほど作動する部分の消耗度が進んできます。弦も製造時から強い力で張りっぱなし、その張力に耐えて響きを保つ響板。毎年調律をしているかどうかは別として、使えば部品交換が必要になります。またピアノは環境によってかなり左右されてます。全く弾かずにそのままでいると作動部が固着し動きが悪くなります。お部屋の環境で温度変化が激かったり、湿度が年間を通じて高めであったり、また埃っぽい場所であったりと、ピアノの経過環境はまちまちです。弾いて違和感があっても簡単に解決できるものもああれば、材木の割れ等で調律の出来ないピアノもあります。ピアノへの弊害の要素は持ち主が思う以上に存在しています。
    sample
     長年放置のピアノでも、調整・調律で済むものは寄せてもらったその日に仕上がり、数万円 かかっても5万円位あれば大体元に戻せます。しかし部品を解体して調整をしなければならないとか、場合によっては部品交換とかなると、部品代・その工賃などで意外と高くついてしまいます。
     実家からピアノを持ってくることも含め、譲る方は高価なピアノ、愛着があり、どこかで生かせたいと思い、「大事に使っていただければ、運賃を持っていただければただで差し上げますよ」。その話で貰い受ける方もピアノが手に入ると願ったりかなったりですが、運賃を掛けて調律をしてもらうだけでもまとまった出費になっています。そこに思ってもみなかったピアノのトラブルで思わぬ修理代を言われ困惑するケースも多く見受けられます。ピアノを返す訳にもいかず、最悪のパターンは廃棄処分したような悲惨な例もあります。

     ピアノの譲渡でそう言った問題を無くすためには差し上げる前にピアノ技術者に見積りをして貰うのが一番です。基本的には差し上げる方が診断して、ピアノを音楽が奏でられる正常な状態にしてから譲渡の話をするのが良いでしょう。それが出来なくても見積書を取ってもらい、譲り受ける方に今のピアノの正確な状態を認識していただければトラブルは少ないでしょう。譲り受ける方も譲られる方の気持ちを一方的に受け入れ、無条件に話を進めずに、頂く方からピアノの技術者に診てもらう位の慎重さが必要です。
     ピアノ技術者(専門家)に診てもらって、決行した後に問題点が見つかっても、技術者の責任で当事者の責任は回避されるわけです。見積書をしっかり作成してもらい、何かがあれば業者の責任に転嫁できる状況を作っておく事が良いと思いますね。よくピアノを「ゆずる」「ほしい」などの情報誌、良いことと思いますが、簡単に素人判断で損をしないようにお気をつけ下さい。(2018,06,01/014)
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    ~~ ソーシャルディスタンス ~~

     脅威の新型コロナウィルスで、私達のライフワークがどんどん変化してますね。我われの生活も含め全ての業種に対して、三密(密閉・密集・密接)を問われています。これからの経済・文化・教育がこの変化に不安を抱えつつもみんな手探りで歩み始めています。
     今から思えば、コンサートである程度人が入り、演奏家からの提供される熱気と、観客席から伝わる熱気、この双方のオーラがステージ上で相乗作用となり、その日・その時・その会場だけの素晴らし時間が得られる、これがコンサートの醍醐味であり魅力です。ソーシャルディスタンスで三密これをどう控えるか、オーケストラも楽団員との距離を伸ばしたり縮めたり、芸術表現でどの辺りまでが感動を与えられるか、試行錯誤が続いているようです。先日小さなホールで行われたコンサート、3密を避けての前後左右を空けての客席作り。まあ健康を守るためとは言え、なんとも味けない風景でした。
    sample  リモートワークとかテレワークが加速し、職場の形態も変わりつつあります。職場の通勤時間が少なくなった分この時間を利用して色々やりたかった事が出来るチャンスと捉える人もいます。初めてピアノを始めた方もいます。今までの楽譜を出してピアノを楽しんだり、新しい曲にチャレンジしたり。またユーチューブでは世界のあらゆるピアノ音楽を聴くこともできます。芸術家の作った曲を、色んな角度で味わう事でまた新たな発見と感動をすることでしょう。
     三密を避ける中、コンピューターの発達でモニター画面でのピアノレッスン、ネットワークでアンサンブルと色んなことが可能になって来ました。しかし同じ空間内で、お互いの生の息づかいの共有できる臨場感がどこまでも伝わるのか、これらもどういう方向へ向かえば良いのか、芸術への尊敬と敬意、より良きものが自然淘汰されずに残って行ってほしいと思います。
    先行きの不安で物事が見えなくなると、少しの情報で惑わされたりしてやみくもになりがちです。スポーツも芸術もやはり感動の共有。冷静にリセットして物事の本質的は何か、何が重要なのかそうでないかを、コロナウィルスを前にして一人で一人考えて行かなくてはならない時代に差し掛かったのではないでしょうか。新型コロナ、すぐの終息は無理でも出来るだけ早い収束を願いつつ、御年寄り、体に持病をお持ちの方にウィルスを移させないためにも、皆で気をつけなければなりません。(2020.07.01/015)

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